ほろほろ旅日記2002 12/21-25
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スロヴァキア 12月21日(土) ブラチスラバ
●いよいよ迫ってきた
8時43分起床。やはり、昨日は寝不足だったようだ。
なんか、いよいよ帰国が迫ってきたのが実感できてきた。この9ヶ月、日本にいる親や友人からのメールでは早かったと言ってきているけど、僕には長かった。いろんなこと、本当にいろんなことがあったからなあ。それこそ、子供の時の9ヶ月並に長かったように思う。それだけ密度が濃かったということか。
海外では様々なカルチャーショックがあるから、今までの自分を否定する気で経験すれば色々と変わったろうけど、僕は果たして否定すべきなんだろうかという気でかかったから、この今の在り様になっている。変わってるのかどうなのか。それでよかったのかどうなのか。さて。
さて、10時だ。フロントに行って、まずは部屋を変更。1408号室に。
実質16階か15階だな。ここは13階がない替わりにレセプションフロア、レストランフロア、クラブフロアがあるから。しかしこれ、テレビがあるかないかだけの差じゃないような。(TVなし1200sk、TVあり1800sk)。明らかに部屋のグレードが違う。綺麗なものだ。
最後なんだし、このくらいの部屋に泊まってもいいだろう。そう、海外での宿はここで最後だ。旅に出た時は、ブラチスラバが最後の町だなんて夢にも思わなかった。そもそも、ブラチスラバという町の存在自体認識してなかったし。最初はシベリア鉄道と鑑真号で帰るつもりだったんだよなあ。
窓の外を見やると、いつも通りの雪化粧のブラチスラバの町が見えた。うん、これはこれで悪くない選択だったと思う。
●ブラチスラバをのんびりぶらぶら
外に出る前に、フロントで映画館の場所を聞く。もう観光に回る気力もないから、最後はのんびり過ごそうと。川向こうにパレスシネマのいいのがあるそうだ。ドナウ川を歩いて渡るのも面白そうだ。
それからハンガリーで古すぎると両替を断られた二ドルを見せるが、やはり駄目。古いというより汚なすぎて、銀行で受け取ってもらえないからだそうだ。ううむ。東南アジアではこれよりはるかにズタボロのドル紙幣が流通してたけどなあ。まあ、ここでは使えないんだから仕方ない。かと言ってずっと持ってる気にもならないし、物乞いにあげるかドネーション(寄付)にでも使おう。
旧市街に入り、ツーリストインフォメーションに寄る。土曜も午前中はやっているそうだ。半ドンか。土産物として、人形とTシャツを購入。
それから旧市街を歩き、ドナウを渡る橋に向かう。
おお、ここにも銅像が。マンホールから顔を覗かせているものだけじゃなかったんだ。何を撮ってるのかな?
旧市街の外れに出た。
ここからドナウ川までの間は大きくて新しい建物が余裕を持って建てられているので、雰囲気が変わる。そっちは寒そうだし、歩いてもあまり楽しくなさそうなので、旧市街の縁を歩いてドナウを渡る橋に向かうことにする。
……しかし、今日は一度降った雪が融けて凍り、さらに日光で表面が少し融けている状態なもので、恐ろしいまでに街中の道路がツルツルだ。こけるこける……僕だけじゃなく、道行く地元のスロヴァキア人もどんどんこけるこける。こけまくっている。なんだこれは。
危ないのを通り越して、コメディー映画か何かみたいに笑えて来た。見ていると、冗談抜きで一分に一人はどこかでこけているような状況だ。ブラチスラバでも今日の道路状況は普通じゃないのかな。路面凍結防止の溶融剤、塩カルとか常備してないんだろうか。
●二日連続の映画観賞
そんなこんなで、やっとのことで橋にたどり着いた。
他と同じく通路はカチカチのつるつるに凍っていたので、手すりにつかまりながらおっかなびっくり歩いていった。勘弁してくれ……。
でも、壁一面の貼り紙・落書きや、橋の中ほどでのドナウ川の眺めなどは実に味わい深くていいものだった。足元が滑るので落ち着いては楽しめなかったけど。
どうにかこうにか渡り終え、ほどなく映画館に着いた。確かに近いな。どでかいショッピングセンターも併設されている、近代的な建物だ。
それはいいんだけど、上映リストを見ても、特別見たいものがない。特に映画ファンってわけでもないからなあ。
……しょうがない、ハリーポッターでも見るか。1を見ないで2を見るってのもなんだが、他にないし。139skで次回上映は14時からだそうだ。安いなあ、3ユーロ弱じゃないか。ウィーンの半額以下か。
ハリーポッターは、さすがは原作が児童文学という感じだった。原作も読んでないけど、長い上映時間をたっぷり使って、学校生活をじっくりと描いている。ストーリーよりそこが眼目なのかな。話の筋が分からないので途中退屈だったが、山場に入ってからは面白かった。ふう。
終わって外へ。17時。
うわ、雨が降ってきている。雪が融けて凍っている上へ雨が降るって、最悪のコンディションじゃないか。ブラチスラバ全体がスケート場みたいなものだ。何度も転び、必死にバランスを取って歩き続け、やっとの思いで旧市街に帰り着く。
●雨の夜
一息つき、まずはTESCOでネット。
日本に帰国するのが夜遅くなるので、24日の夜をどうするか、いい加減はっきりさせないといけない。友人Tが大阪での24日の夜は任せろと言ってきたので手配等、本当にいけるのかの確認メールを数日前に送ったのだが、まだ返事がこない。すぐ出すって言ってたのに。彼、タリンで受けたメールのこともあって、いまいち信用できないんだよなあ。いつものように安請け合いだけして、直前に無理になって「すまんすまん」では困るんだがなあ。そもそも結婚して二週間ほどで、平日のクリスマスの夜に家に帰らず、僕と一緒に大阪のホテルに泊まって飲むというのはどうなんだとも思うし。
早く確定しないともう一人、部屋に泊まっていいよと言ってくれている神戸の友人Yにも迷惑がかかってるんだけどなあ……頼むよ、本当に。
ともあれ夕食。今日はホテルのレストランでスロヴァキア料理。
あとは部屋でスロヴァキアの夜景を楽しみながらくつろぐ。
スロヴァキア 12月22日(日) ブラチスラバ
●スモウレスラー
昨日はついついテレビの映画を見て、夜更かししてしまった。
冒険活劇なアクションコメディーは気楽に観れて面白い。中国製だったので、例によって日本軍が悪役だけど、ここまで非常識に描かれてれば全然気にならない。忍者部隊や力士軍団が出てくるような映画だったし。
で、起きたのは9時半。喉が痛く、お腹の具合も悪い。風邪か? もう最後の最後なんだ。もってくれ、自分の体。風邪なんか帰国してからいくらでも引けばいいんだからさ。もう少しだけ、頑張れ、自分(そういや長旅から帰国したら、ほっとして風邪を引く人って多いらしい)。
●ぶらぶら……あれ?
今日することはそんなに多くない。土産物を買って、散髪、写真のプリント、町歩きくらいだ。
日曜日で土産物屋も大抵閉まっているんじゃないかと思い至り、フロントで確認してみると、やっぱり。が、それでも大通り沿いの郵便局の少し北にあるから行ってみればと勧められた。そんなところに土産物屋があるとは知らなかったよ。
ブチスラバは周囲にあるウィーン、プラハ、ブダペストのような観光都市ではないので、土産物屋はそんなにない。とりあえず、言われるがままにそちらへ。おお、色々あるじゃないか。トレーナーあります? え、ない。そう。Tシャツのみ? うーん。え、この店、今日は13時半までで、次に開くのは1月2日? ……また来ます……。
他の土産物屋も見て回りながら旧市街をうろつく。クリスマスの賑わいが良い感じだったので、写真を撮っておこうとデジカメを取り出すが、電源が入らない。
……あれ?
電池を交換してみるが、やはり駄目。
朝、画像チェックをした時は大丈夫だったよな? そういや東南アジアで一度、同じようなことがあったっけ。あの時は確か、なんか分からんうちに直ったような……。参考にならん。ここまで来て……。このタイミングでよかったと考えるべきなのかもしれないが、帰宅するまであと3・4日、もって欲しかった……。これだけの旅の最後の写真が、テレビのスモウレスラーを撮ったものって……。
その後もうろつくが、土産物屋、トレーナー類を売っているのはやはり見当たらない。写真屋も。デジカメのプリントを頼めそうなところは、ない。
仕方ないので、先の土産物屋に戻る。父にはTシャツで我慢してもらおう。が、デザインを見てもベタなのばっかりだな……。お、スロヴァキアエアフォースのTシャツがある。友人T用に購入。280sk。
●常連さんでしたか
そしていつものTESCOのネット屋に。なんか、このネット屋に来るたびに押してもらってたスタンプがいっぱいになったとかで、今回は無料だそうだ。バックパッカーなのにそんなに何回も来たってことか……来てたなあ。ありがたいからいいんだけど。
……そして、友人Tからのメールの返事は相変わらず、ない。京都在住で平日だし結婚したところだからどうせ無理だろうと思っていたら、大丈夫だと、空港近くで、悪くても大阪市内に宿を取るから飲もうと言ってきて、宿が確保できたら(できなくても)すぐ連絡すると言ったきり、数日経っても音沙汰なし。安請け合いする奴だと知ってるからそういう気で待ってるけど、正直この状況では勘弁して欲しい。そんななら始めから気を持たせるような返事を寄越さないで欲しいよ。
などとしていたら、若い日本人女性二人組が入ってきた。珍しい。僕がメールを使っているのを見て
「日本語使えるみたい」
と話している。いや、今ここで日本語が使えるのは、僕がプログラムをインストールした三台だけですよ。せっかくなのでそのマシンを教えてあげる。この人達はぽーっとしていない。不思議なもんだ。
●出発の用意色々
ネットを終えてもまだまだ時間があるので、散髪に行こうかと思ったが、先にウィーン国際空港までのバスのチケットを買いに行く。まず満席にはならないと思うけど、念のため。
14時30分に行ったら、「15時のバス?」と言われた。やっぱり楽勝か。いえいえ、明日のバスです。空港までは301コルナ。大体1000円か。
喉が痛いので、一度ホテルに戻る。部屋でカメラをどうにか復活できないか試してみるが、効果なし。これは帰国してから修理に出すしかないかなあ。
16時30分、体力と気力が回復したので、散髪に行く。普通は日曜日は閉まっているのだが、クリスマス前ということで開いているところがあった。ホテルからTESCOへ向かう途中だから、本当にすぐ近くだ。
散髪代が81skって、また嘘みたいに安いな。ま、その分仕上がりもそれなりだけど。剃刀を使う資格を持っていないのか、それが普通なのか、生え際もバリカンでなでるだけだった。際もぴちっとさせないのがこの国のスタイルなのかな? 例によって英語も全く通じないのでパスポートの写真を見せて、お任せで。サイドはバリカンで、まあ期待通りになったんだけど、上が……。妙に長いし、梳かれてしまうし……。なんかボコボコな仕上がりだなあ。ま、これだけ安くて早ければ文句はないんだけど。ここもシャンプーとかはないので、終了後すぐにホテルに取って返し、シャワーを浴びる。髪の切れ端が服の中に入ってチクチクするのはたまらないので。
最後にもう一度TESCOに出かけ、スーパーで、土産というか実用品というか、細々としたものを買い込む。ジレットの髭剃り(5本450円)と綿棒、歯磨き粉、シリアルなど。
それからもう一度メールチェックをしてみると、友人YとTからそれぞれメールが来ていた。一安心。しかし友人T、日本着がどれだけ遅くなるか分からないのに、ホテルが取れなかったから俺の京都の自宅に泊まれ、って……電車がなくなる可能性もあるんだぞ。できるのか? 安請け合いしすぎじゃないか? どうにも信用しきれないものを感じてしまったので、よろしく頼むと返事を送りながら、念のため友人Yにも申し訳ないが万一の時は頼むと返しておく。Yの方はどのみち仕事で遅くなるし、他に何の予定もないから構わないと言ってくれているので、保険扱いで申し訳ないけど、甘えさせてもらおう。
●ヨーロッパ最後の夜
夕食はホテルで、最後の伝統的スロヴァキアスタイル。つくづく、欧米で日本食がヘルシーだと言われる訳がよくわかったよ。日本人からすると、そっちが濃すぎるんだと言いたくなってしまうけども。それとは別の次元でおいしいんだけどね。
部屋に戻ってシャワー、荷物の整理。普段使ってなかった孫バッグも使ったら、まだリュックのスペースに余裕があることを発見。100リットルのリュックという触れ込みはダテじゃない。買い換えてよかった。出国時の40リットルのリュックのままだったら、とっくにどうにもならなくなっていただろう。
窓から外を見ると、少しみぞれ混じり。いよいよ明日、飛行機で日本へ向かうんだ、と思っても、想像していたような感慨もなければ、帰りたくない、もっと旅を続けたい! という思いもそんなに強くない。我ながら意外だ。
帰国後の不安は山のようにあるが、それは旅とは別のことだし、今が丁度いい頃合いなのかもしれない。ああ、帰るんだなあ、と思う。それだけ。この心境は想像していなかった。いくら自分の方針が、心と風の向くままに急がず焦らず、で、その通りだったとしても。もちろん早く帰りたい、もう海外はいいよ。というわけでもない。
これが明日以降、日本が近づくにつれてどう変化していくのか、あるいはしないのか、楽しみだ。
スロヴァキア共和国 Slovak Republic → オーストリア共和国
Republic of Austria → 英国(グレートブリテン及び北アイルランド連合王国)
United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland
12月23日(月) ブラチスラバ → ウィーン(ヴィエナ) → ロンドン →
●大移動スタート
なかなか寝付けなくて困ったが、1時過ぎになんとか寝て、目が覚めたのは7時半だった。なんでこんな早く。今日は絶対に寝過ごせないという思いからかな。
外はきっぱりと、雪。くそう、デジカメがいかれてなければ撮りたい景色なのに。……ま、これも巡り合わせだ。仕方ない。
さて、いよいよ最後にして最大の大移動が始まる。所要時間的にはもっと長いのもあったけど、移動距離は間違いなく最長だ。
いかん、耳が遠くなっていて、なおかつ他人の会話が頭に響く。完全に風邪だ。くそう、なんであとちょっとが粘れないんだ……。
雪の中、チェックアウト。ありがとう、ホテルキエフのみなさん、フロントの皆さんもお元気で。おかげで楽しかったし、スロヴァキアも大好きな国の一つになったよ。
バスターミナルへ行く途中、フォルクスバンクを見つけたので、残るスロヴァキアコルナをユーロにチェンジ。手数料2パーセント、2,100コルナが47.9ユーロに。そんなものかな。
バスターミナルで端数の16.3コルナのうち15コルナを使って何か適当なものを買う。これでコルナは大丈夫だけど、ユーロも数えてみたら、小銭だけで14ユーロほどあるよ。参ったなあ。
●さらば欧州大陸
余裕を持ってバスターミナルに来たつもりだったが、発車予定の20分前からバスが荷物の積み込みを開始した。こんな前から客を乗せるのか。
バスは定時に発車したが、雪のせいでスピードが出ず、かなり遅れ気味。国境ではいつものように出国、入国。雪だからやけにゆっくりと走る車が多く、どんどん遅れていっている。雪ったって、車道上は濡れてるだけで今日は凍結してないから、雨と同じで普通に走ればいいのにと思うんだけど、違うのかな。
結局、11時40分着の予定が12時20分にウィーンインターナショナルエアポートに到着。まあ、どのみちこういう様々なトラブルを想定して余裕のあるスケジュールを組んでるから、これでもチェックインは大分先なんだけども。
土産物を見て回るが、やはりトレーナーはないなあ。あっても45ユーロと日本で買うより高かったりするので手が出ない。薬局があったので、鼻詰まりの薬とティッシュを買う。6.5ユーロ。……飲み薬じゃなくて点鼻薬か。風邪薬って言ったはずなんだけど、症状を見てこっちにされたかな。
さらに空港の店を見て回って時間を過ごす。最後の土産として、帽子を購入。
さて、そろそろ13時だ。チェックインカウンターに行こう。
それにしても、ウィーンの町を歩いた時から見当はついていたけど、ここ、滅多やたらに日本人が多いなあ。僕がこれから乗る便はロンドン行きなので日本人客はそんなにいないと思うけど、なにせここからは日本への直行便が飛んでいるもんな。多いわけだ。
20分ほど待って、チェックイン。やー、やはり空港のスタッフは愛想いいわ。しかし暑いな。ジャンパー、はっきり言って邪魔だ。空調の問題か、自分の問題かはともかく。
●離陸。ロンドンへ
さて、ここから日本へは三つの飛行機を乗り継ぐんだが、荷物、ちゃんとついて来いよ。大リュック、関空で会おう。
三つの飛行機のチケットをもらってチェックイン終了。……あれ? X線やってないぞ? 後でやるのか? でもそれだと、不審な時にどうにもできないよな……あれ?
バッグをケースに入れるのは初めてだ。スーツケースやトランクと同じように扱い、整理しやすくするためかな? そういや今はいいが、1月からは一つのバッグに32kg以上の荷物を入れるのはできなくなるそうだ。少なくともブリティッシュエアウェイでは。まあ今の僕には関係ないけど。
ターミナルに入るのにチケットを見せ、次にゲートをくぐるのにパスポートコントロール。愛想がいいのは良いけど、何の質問もないのか。関空の厳しさが特別なのかな。この飛行機で飛んだ先、ロンドンではターミナル1からターミナル4に移動しないといけないらしい。大変だ。
パスポートコントロールの所で前にいた白人のカップルが僕を見て笑いかけてきた。「ホンコン?」確かにロンドンを経由して行きますがね。あなた達も?
ゲート前まで来ると、係の人が近寄ってきた。ボーディングはまだ先だよな? ……あ、僕の乗るA6ゲートの隣のA7ゲート、直通の大阪行きなのか。しかも、そろそろ離陸時刻が迫っている。僕が見るからにアジア人だったから確かめに来たようだ。なるほど。イギリス行きの便には、僕の他に最低二人の日本人女性客がいるらしい。ふむ。
トイレに行ってから余っているユーロコインを使うため、2.5ユーロのお菓子を買う。普段なら絶対買わないようなお菓子だ。これも土産にしようっと。
14時15分、ゲートが開くまでまだ10分あるというのに、ヨーロッパの白人客は並び始めた。乗り物関係ではヨーロッパの人は全て、「早すぎるだろ」ってタイミングで準備をするよなあ。風習の違いなんだろうけど。……っておい、もうゲート開いてるよ。ま、離陸時間までは変わらないだろうけど。
外の天気は相変わらず悪いが、ロンドン行きの便は遅れない模様、か。良かった。乗るほどに飛行機に対する恐怖感は薄らいでいく。色んな意味で高いなあとはやはり思うけど。手続きが煩雑で面倒臭いなあとも。
14時45分、最後のボーディングゲートを潜り、チケットが切られる。そして機内へ。エアバスA320。そんなに大きくはないが、しょぼくもない。二時間半のフライトなんだから、こんなもんかな。アテンダントの人は挨拶や数字の日本語はばっちりだ。さすがブリティッシュ、日本人の利用が多いんだろうなあ。って、日本便のないガルフエアでもそうだったっけ。大手はどこでも同じようなものなのかも。
そんなこんなでテイクオフ。
あれだけ雪が降っていたのに、重く垂れ込めた雲の上に出ると、日の光が強くてまぶしい。理屈では分かっていても、やっぱりこのギャップはインパクトがある。
しかしまあ、飛行機の上から見る雲海はいつ見ても凄いな。高さが桁違いだから、見渡せる雲の広がりも半端じゃない。何キロ、何百キロ先まで見えてるんだろう。ま、その分地上は悪天候な訳だけど、上ではその分凄い景色が見られるわけだ。
食事(ミール)が出てきた。サンドイッチと菓子パン、ムース、ジュース。……確かにミールだ。食事というより食べるものといった風情だ。ま、食事時ってわけでもないし。
ミールを片付けた頃から、飛行機は雲の中に入った。といっても別に揺れないので気にはならないけど。雲がこんな上のほうまであるのか。それでも降下を始めたら、耳がキーンとなる。鼻が詰まっている関係で、全然耳抜きができないので困った。
時差の関係で時計を一時間遅らせて16時15分、無事ロンドンのヒースロー空港に到着。
●ロンドンから飛び立つ
予定通りターミナル1に着き、ターミナル4へ移動。その前にX線検査が。でもパスポートコントロールとかその辺はなし。ターミナル間の移動は無料バスだった。パンフレットには移動は20分かかると載っていたが、何のことはない、10分ほどで到着した。楽ちん、楽ちん。
ずっと何かの中にいるので、ロンドンの印象とか、暑いとか寒いとか、何もない。飛行機から街並みをちらと見た感じでは、中欧よりややスマートかな、と思ったくらいだ。
ターミナル4には16時45分に到着。次のフライトは18時25分発なので暇ではあるが、買い物しようにもポンドなんて持ってないし。いや、よく見ればユーロや円も使えるようだし、両替屋もあるんだけど、ロスが大きすぎる気がして使う気になれない。
しかし、鼻が止まらない。これは日本入国時のイエローカードで「風邪をひいてます」にチェックを入れないといかんかな。ううう、情けない。
とかやってるうちに、17時08分。そろそろ香港行きの搭乗ゲートのナンバーが示されるかもしれないな。とディスプレイを見てみると、8番だった。ふらふらとターミナル内をうろつき、たまたま腰をかけてた、まさにここだった。ラッキー。まあまだ時間はあるので、ターミナル見物を続けるとしよう。
一時間前になったので8番ゲート前に戻ってみると、いるいる、山のような中国人が。これだけ大勢の中国人を見るのは実に久しぶりだ。それこそ中国を出て以来初めてじゃないのかな。やはり、顔立ちが日本人とは違う。面白いものだ、ヨーロッパ人にはこの違いが分からないのかなあ。とか言いつつ、中に日本人が混じっていたりして。
ゲート前に来たはいいけど、一時間前なので、まだ特にすることがないんだよなあ。ボーディングが始まるまでは暇だ。次の飛行機では窓際とかじゃなく、真ん中の席っぽい。残念。ゆっくりできるかなあ。
ターミナルだけしか見てないし、法的にはここはイギリスではないのだが、ここから受けたイギリスの印象は、やはり英語の国だけあって、当たり前だが英語が満ち満ちている国だなあ、というものだった。雑談とかアナウンスとか看板とか、全部その気になれば理解できる。これは僕にとって、やはり他の国とは大きく違う点だ。体調が悪いので現実にはあまり理解できてないけど……。
17時45分、ボーディング開始。ボーイング747。さすがにでかいなあ。各シートにテレビモニターがついているし、凄い……。
あらかたの乗客が座席についたのを見て思ったんだけど、なんか客が、中国人とそれ以外に大雑把にだが分かれているような。僕の座った45Dの辺りには、中国人も白人も多い。中間地点かな。
それはいいんだけど、なんでまたシート前に差し込んであるパンフの中に「アメリカ合衆国入国に際して」なんてのが入ってるんだ? この便には関係ないのに。常備されてるのかなあ。
横の席は空いてるのかな? だとしたらゆっくりできるんだけど。僕の席はDなので、通路側だ。予想通り、客層は中国人がメインだった。日本人は見当たらない。うん、これでいい。どうせ帰国したら日本人の中で暮らすんだから、帰国便くらい日本人まみれの長時間フライトは避けたかったからこれを選んだってのもあるんだし。まあ香港から関空の便では日本人メインになるだろうけど。
そんなこんなで、飛行機はヒースロー空港を離陸した。
●飛行機内で一泊
フライトアテンダントを見てみると、ブリティッシュエアなのに中国を意識してか、中国服っぽいのを着ている。アテンダントもアジア系の女の人が半分くらいいる。色々と気を使ってるんだなあ。
飛行機は時速950km/hでぶっ飛んでいる。
しばらくして、お楽しみのミールの時間がやってきた……え。ジュース一杯、ワイン小ビン一つ、スナックお試しサイズ(14g)のみ? ……これまた、本当にミールだなあ。これで終わりだと、さすがに寂しいぞ。夜行だから(そういや夜飛ぶ飛行機は夜行と呼ばないなあ)少なめに抑えているのかな。
それはともかく、目の前の個人用ディスプレイで飛行経路とマップが見放題なのは、地図者の僕には嬉しいサービスだ。この飛行機、ロンドンを出てからアムステルダム、コペンハーゲン、リーガ、モスクワ(の北方)、後はロシア(モンゴルの西端あたり?)、中国と通って香港に行くんだな。このマップは英語表記と中国語表記が交互に出るのが面白い。ベルリンって、日本では伯林だけど、中国では拍林なんだ。しかし、気がつけば日本語のない環境で問題なく落ち着くようになってしまったなあ。帰ったらすぐ元に戻ると思うけど。哥本哈根がコペンハーゲン、莫斯科がモスクワ。
中国の女の人って肌の手入れ、白人さん並みに気にしてない人が多いのかな。なんか荒れ放題な人が一杯なんだけど。日本人なんか目じゃない出っ歯の人もいるし。ま、いろいろなんだろう。
お、メインのミールが来る気配。やった。味は濃かったけど、暖かいビーフ、パスタがそこそこのボリュームで出た。これは嬉しい。うん、これで満足して眠れる。お休みなさい。
→ 中華人民共和国香港特別行政区 Hong Kong Special Administrative Region of the People's Republic of China → 日本国
Japan
12月24日(火) → 香港 → 関西国際空港 → 神戸
●香港へ
……眠れない。飛行機には寝台席はないし、時差で感覚が狂うし。母がよく「飛行機は怖くないけど疲れる」と言っていたのが判った気がする。夜に移動するのにいい乗り物ではないな。
なんとか眠れたのは22時から0時半までで、あとは目をつむってぼーっとしているしかできなかった。
4時半に朝食が来た。えらく早いが、到着まであと一時間半だからそんなものか。パンとミックスグリル。もちろん食べたけど、眠いから変な感じだ。これは英国時間の朝食だけど、香港時間にしたら夕食だよなあ。それにしても、どうにもこうにも眠くてだるい……。
つくづく飛行機GPS、面白いのにデジカメがいかれてて撮れないのが残念だ。……っておい、在部ってどこやねん。なんか下関あたりにポイントがついてるけど、そんな地名知らんぞ(帰国後ネットで検索しても分からなかった)。
ここからは香港時間に直し、予定を少し遅れて14時08分、香港着。香港まで帰ってきたんだ。この旅の最初の地点、広州にほど近い場所だ。しかしまあ、初の香港にロンドンから来たって日本生まれの日本人もそう多くはないんじゃないだろうか。天橋立も初訪問は北からだったし、ひねくれてるというか何と言うか。
そういや今日は12月24日だ。ブリティッシュエアの機長もアテンダントも、降機時に「Merry Cristmas & A Happy New Year」と言っていたなあ。香港に降りる時のアテンダントなど、サンタ帽子を被っていたし。そうか、そういう日なんだった。
●香港にて
……しかし、暑い。建物の中で、空調が効いているというのに、暑くてジャンパーどころかセーターも着てられない。やっぱり南の地なんだなあ。
鼻は相変わらずだ。こましになったけど、治ってはいないし、難儀だなあ。
難儀と言えば、関空行きの便、16時40分発だから時間があり、どこに行けばいいのかなかなか表示されない。暇だ。香港ドルなんて持ってないし、ロンドンと同じ理由で両替する気にはなれないし。水は買いたいんだけどなあ……。
眠くてぼうっとしていたのでよく覚えていないが、今はまだ日本人はあまり見かけないような。ま、チェックインも始まってないんだしなあ。
香港の印象といっても窓際の席じゃなかったので、ほとんど見れてないので特にない。海と島、うん、港湾やね、としか。
空港内は中国語と英語のダブル表記だ。だけどあまり「ああ、中国だ」とは思わない。半分英語というのに大抵見慣れたせいか、中国語自体を世界の至る所で見かけてきたからか。両方かな。
不思議と、8時間の時差で時間を損したとは思わない。実感もない。寝ぼけてるからかな?
もう一つ不思議なことに、あと一回飛行機に乗れば日本に帰るのに、まだ、いよいよ日本に帰るんだという実感が全くない。どっちかというと、今から日本という国を訪問するんだといった気分だ……ううむ。
にしても、今日は12月24日なのに香港の空港で、寝不足かつ無精髭で呆けている僕はなんなんだろう。
15時過ぎ、どうもこの後の動きがよく分からないので、ツーリストインフォメーションに行って尋ねてみる。
僕が乗る関空行きは26番ゲートなので、「E2」のキャセイパシフィックのカウンターに行ってチェックインをして下さい、とのこと。行ってみると、もうチケットを持っているのでボーディングの方に行って下さいとのこと。
おお、入り口がこんなところに。分かりにくいって。えらく地味だし。X線。これだけじっくりと調べられたのは久しぶりだ。鞄は中を開けられて、X線を二度通しだし。でも、係官の態度が礼儀正しかったので嫌な感じはしなかった。今のところ、まだ最初の関空が厳しさと愛想のなさの総合でトップだよ。と言っても別にえげつなくはなかったんだけども。
中に入り、出発ゲートのベンチでごろりと一休み。広々としてて、ベンチがいっぱいあるので気持ちがいい。本当にデジカメが使えないのが残念だ……。
しかし、いまだに実感できないんだけど、今晩本当に日本で寝るのか? 長い間外に出ていたから、なんか信じられない。実感が湧かない。出発初日とは正反対のことを考えているなあ。
……日本行き、さぞ混んでるんだろうな……。もう少しだ。
香港の天気は、曇り……なんだけど、結構雲は薄くて柔らかい日の光に満ちて、ぼんやりと靄がかかったようで、いい感じだ。空港の両側、山とビルがぼんやりとかすんでいて、春の日のようだ。これはデジカメがあっても、写真で伝えるのは無理だったろう。なんとも不思議な眺めだ。
日本に国際電話をかけて、化粧品の話で雑談している若い日本人女性がいた。日本は近くになりにけり…………だから、帰国なんだってば、自分! これは感動が薄れてるとか好奇心の摩滅とか、そういうものとは全く別の次元の状態のように思える。なんなんだろう、これ……?
●離陸前
16時10分、ボーディング開始。
それはいいんだが、いくら日本行きとはいえ、日本語のアナウンスがあるとは。機内ではあると思っていたが、まさかボーディングの案内時点からあるとは思わなかった。しかもボーディング手続きを、座席番号ごとに分けてするとは。日本的だ。
ちなみに僕の座席は54K。後ろの方の右端だ。そういや来る時も後ろの方だったっけ。
機内に乗り込んでみると、お隣さんは白人の兄ちゃんだった。
16時35分、予定の乗り込みが完了したのか、予定より5分早く動き出した。ブロックの一番前の席なので、鞄は棚に入れておくよう指示される。このキャセイ・パシフィックの飛行機には日本人乗務員が三人乗っているらしい。
動き出したのはいいが、離陸の順番待ちか、なかなか発進しない。
このタイミングで、アテンダントの人がイミグレーションフォームを配ってまわっている。僕にも差し出されたので見てみる。これは……外国人用のカードだ。おいおい。アテンダントさんと目が合ったのでフォームを掲げ、
「?」
というしぐさをしてみせると、驚いたように
「Are you Japanese?」
……日本人だってば。日本行きの便でまで分かってもらえないとは思わなかった。この一角は日本人客用ではなかったのかもしれないけど、それにしても……。中国語の新聞を読みつつ、ロードオブザリングの原書を持っていたのがまずかったのかな?
●日本へ
数えてみたら、人生で飛行機に乗るのはこれで10回目だ。そのうち、今回の旅だけで6回。ううむ。
17時00分、発進。
離陸後、窓から見える香港の美しさに目を奪われる。青空がのぞき、雲がちとはいえ海にぱらぱらと浮かぶ島々に夕日が映える。その島に林立する近代的な高層ビル群、そして海上に散らばる数多の船、船……。くうう、写真を撮りたい……。香港ってこんなきれいな自然もあるんだ。知らなかった。靄と海と夕日……。あれは虹……第二の太陽!? ここは天上かと思ってしまった。こんな景色は初めてだ。いい記念になった。
この飛行機にもパーソナルモニターがある。最近はスタンダードなのかな? キャセイパシフィックのエアバス。
少しうたた寝。
ごはんには、クリスマスなのでお菓子が一つおまけについていた。嬉しいな。食後にお茶、おしぼりのサービス。このへんが東アジアだよなあ。
飛行機は日本列島に差し掛かってきた。晴れているようで、宮崎や明石の町明りが見える。
21時00分、予定通りに無事着陸。
●関西国際空港にて
さて、問題の入国だ。長期放浪の後だからどれだけかかるかな。
まずは検疫コーナーだ。
東南アジアに行った人は記入をとあったので書こうとすると、係の若い兄ちゃんがやって来て、
「3週間以上前のことなら記入はいいですよ」
と。なんだ、いらないんだ。
イミグレもえらくあっさりと、何も聞かれずに入国スタンプを押してくれた。
税関も、
「どこに行って来ました?」
「東南アジアからヨーロッパにかけて、9ヶ月ほど」
「ご旅行ですか?」
「はい」
てなもんで。
「申告するものはありますか?」
「ありません。お酒は3本までOKですよね」
「OKです。タバコは?」
「吸いません……あ、持ってません」
との口頭だけで終了。
色々な話を聞いてたし、出発時の厳しさもあったから、少なからずびびってたのに。今回の関空、楽だったし、すごく感じも良かった。受け答えで怪しいかどうかを判断するんだろうか。
よし、ともあれこれで日本への入国が完了した。時計を一時間進める。
9ヶ月ぶりの日本時間だ。そして、外貨を日本円に……って、なんかレート、良くないぞ。東京三菱銀行だから正しいとは思うけど、1USドル≒117円、1ユーロ≒115円って。100ドルと110ユーロを両替。2万3千円ほどになる。なんか円になると、減ってしまったような気がするなあ。
●日本という国
とにかくまず電話をかけないといけないので、テレホンカードを買う。1,000円。ぐお。なんだこの馬鹿高さは……!
何はともあれまずは実家に無事帰国の連絡。淡々と、穏やかに迎えてくれた。感謝。
次に、結局最終的に今晩泊めてくれるのかどうなのか、何がどうなっているのかはっきりしないまま当日になってしまった友人T。……結局、京都に来いと? しかも明らかに乗り気じゃない。口調が重い。言外にできれば来て欲しくないってのがにじみ出ている。さては嫁さんに何か言われたな。だから安請け合いするなとあれほど言ったんだ。正直言ってこっちもそういうのは有難迷惑なんだから。いいよ、嫁さんと初のクリスマス、ゆっくり過ごしてくれ。これまでのやり取りでそういう人だと分かっちゃってたし、そうなるんじゃないかなと覚悟はしてたから。今さらそれはないと怒る気にもなれないよ。
ということで、当日の夜に申し訳ないが、神戸の友人Yに電話。多分泊まらないと思うと言っておきながらの虫のいいお願い。駄目だったら大阪から神戸の間のどこかで適当に泊まるか。……え、いい? 済まないねえ、ありがとう! 布団はないけど、暖房が効いているから問題ないらしい。よろしく頼みます。
……これだけ電話をかけたのに、200円か……カード、買うんじゃなかった……。
ということで、やっと決まった今夜の宿、友人Yの住む神戸までをどう行くか検討する。
六甲アイランドまでリムジンバスで行けば楽だとのことだったが、調べてみると21時45分に出たのが最終だったようだ。今はもう22時00分を過ぎている。
仕方ないのでJRで向かうことにする。1,660円か。いい値段するなあ。明日も2,000円くらい使うし。Jスルーカード買うか。窓口で5,000円のを購入。痛い痛い。なんか飛んでいくお金の桁が違うような気がするよ。やっぱり日本の物価は高いなあ……。
●鉄道が電車ばかりです(驚)
22時10分発の関空快速に乗り込む。
やはりここは日本だ、列車の中がすごくきれいだ。車内は明るいし。タイミング的なものか、そんなに混んでないのもありがたい。
考えてみたら、この車内にいる人みんな、日本語で話しかけたら100%通じるんだよな。嘘みたいだ。
二人掛けの席に一人で座ったのだが、横に座ってくる時、みんな(たまたま若い女性ばかりだが)会釈してから座ってくるのが日本的だと感じる。大人しく黙って乗っている人が多いのも同じく。
携帯電話が普及してるのは世界中どこでもそうだが、二つ折りタイプが主流なのはこの国ならではか。
車掌さんが愛想よく、コンタクトを落とした人の手助けをしたり、JRプランの宣伝をしたりというのもこの国ならではだ。用聞きに車内をまわるのも。
ぼーっとしてても周囲の会話の内容が勝手に頭に入ってくる。これが母国か……。
だが今のところ、正直、まだ帰って来たという実感はない。じわじわと感じていくのか、あるいは実家に帰ったら来るのか。
22時56分に天王寺着。23時00分環状内回り大阪行きに乗り換える。やはり神戸に着く頃には日付が変わりそうだ。
それにしても、ぬくい。日本てこんなに暖かかったのか? いや、他の人は普通に冬の服を着てるけど、いくら風邪引きだからって、暑くてジャケット着てられないんだけど。
……あれ? 日本人の髪の毛の色って黒じゃなかったのか? 特に女性の頭部に黒がない……。染めてない女の人っていないんじゃあ……? 時間的な問題かな。猛烈な違和感を覚える。環状線に女性専用車両なんてのができてるよ。訳が分からない。やはり9ヶ月というのは長かったんだなあ。いろいろ変わってる。変わったのは日本なのか、自分なのか。
日本で見る日本人には、ウィーンで見たようなぽーっとした顔の人は特に見当たらない。ま、異国に観光に来ている人と、平日、クリスマスイブの深夜23時過ぎに仕事を終えて環状線に乗ってるような人とを比べてはいけないのかもしれないけど。
なんだろう、夜のせいか、風邪のせいか、久々の日本は懐かしいというより、新鮮だ。そして、きれいだ。
やはり帰って来たというよりは、
「日本という国にやって来た」
感じがする。面白い。
23時20分、大阪駅着。23時31分発の快速で神戸へ向かう。
乗車時の懇切丁寧なアナウンスも他の国ではなかったものだ。日本は西洋化されてるとずっと思ってたけど、違うんじゃないかな。日本の中から見たらそうでも、外から見たら必ずしもそうは言えないと思う。西洋のものを日本のやり方で取り入れてて、それが「似て非なるもの」として発展しているという印象だ。
列車の中がこんなに静かな国が他にあったか? こんな遅い時間まで普通に列車が運行している国は……オランダとかもそうだったか。なんにしても、アジアの東の果てで、欧米を見ながらも独自に発達しているのが日本なのでは。
確かにこんな国、世界に他にない。
まさか日本をこんな目で見る日が来るとは。これも得難い経験だ。
自分なりにこの感覚の理由を考えてみると、今現在、僕はまだこの日本人の中に「入ってない」、「仲間に戻ってない」。だから異邦人としての感覚で日本を見ているんではないだろうか。だとすると、この感覚は貴重だよな。そのうち元に戻るだろうし。
大リュックは嵩張って邪魔なので、空港タグは外せない。これがあると、他の人は少しは大目に見てくれるから。
「どこから帰って来たんだろう?」
と興味深げにタグを見ていく人もいるし。特に今はタグが三つついているので。
というか、こんな時間なのに半分くらいの乗客が立っているほど混んでいるのが驚きだ。
他人に対して特にニコニコともしないけど、完全な無関心ではない、お互いの邪魔をしないという暗黙の了解がある、この距離感。
日付が変わる頃に駅にたむろする、不良というわけでもない中高生。
全部面白い。文化の方向性が見えるし、いかに安全な国かというのも分かる。
目的の六甲道駅で0時過ぎ、友人Yと合流。彼のアパートに行き、2時半まであれやこれやと話す。
日本 12月25日(水) 神戸 →
●日本の朝
時差の関係だろう、へとへとなのに全然寝付けなかった。なんとか3時から4時の間には眠れたけど。
目が覚めたのは8時50分。友人Yは今日、仕事の休みを取っているそうで、助かった。
少しゆっくりしてから、10時に友人の車で朝食を食べに出かける。が、のきなみ食堂は11時からで、開いているところがなくてうろうろする羽目になった。結局、10時40分、ロイヤルホストに入り、唐揚げランチを頼む。案外、というかやっぱり日本の料理はこんなメニューでもコテコテしていないなと実感。味のほうは風邪なのでよく分からないけど。
六甲道駅まで送ってもらい、友人Yと別れる。
一人で三宮に行き、久方ぶりに本屋巡り。ああ、楽しい。旅の間欲しいと思っていた、ラオス語とルーマニア語の本を買う。どれだけ読むかはともかく、欲しかったんだよなあ。
13時10分、快速で大阪に向かう。
それにしてもだるい。風邪か時差ぼけか。少し雨がぱらぱらとしている。寒くはないが、よくない天気だ。
大阪駅では周囲にあるソフマップや本屋巡りをする。本屋やキオスクを見ると、日本が漫画文化の国だという事がよく分かる。好むと好まざるとに関わらず、これが特徴だ。馴染み深い光景だが、まだ帰国したって気分はしないなあ。
●帰還
そしていよいよ、実家に向かう列車に乗り込む。
車窓風景はよく知ってる風景なのに
「知ってる、懐かしい」
より
「おお、日本的だ。興味深い」
という思いが先に立つ。というか、そんなに懐かしくない。それより
「田圃だ、瓦屋根に板壁だ、雑木林だ、日本独自のスタイルだ、なんとも興味深くて面白い」
としか思えない。本当に不思議だ。やはりまだ、日本という国を訪問している、という旅人的視点に立っているんだろうな。
しかし、それはそれとして、やはり体調がよくないこともあり、しんどい。
16時30分を過ぎても、外はまだまだ明るい。南に来たんだなあ。
そして、最寄り駅に到着。
仕事を終えて迎えに来てくれていた母と合流し、母の運転する車で家へ。父も犬も元気に迎えてくれた。
故郷の風景と実家を見て、なおかつ家族の顔を前にして、ここで初めて実感できた。
「帰ってきたんだ」
と。
違和感がなくなるのはまだ先だろうけど、たった今、僕はようやく日本に、故郷に帰りついた。
ただいま。