ほろほろ旅日記2008
1月26日〜28日 東京・新宿行


2008年1月26日(土) 兵庫 → 1月27日(日) −東京


●決定まで
 今回に関しては、そもそも行くかどうかを決断するまでにえらく時間がかかった。主に金銭的な理由で(^^; いや、本当に余裕がなくて悩んでたんですよ。最後まで決めかねて、最終的にやっぱりやめておこうと思っていたところでなぜかひっくり返り、行くことにした。

 行くと決めてからも、その手段にかなり悩むことになった。ぶっちゃけた話、お金がないので、可能な限り安い手段を探すのに。
 時期的に18きっぷは使えないので鉄道だと片道一万円近くかかる。飛行機だともっとかかるし、自然と選択肢はバスに絞られた。調べてみると、かつては大阪からのドリーム号くらいしかなかったのに、あちこちから安い深夜高速バスが出ている。あまりに多くてどれにしようか迷ってしまうほどに。大阪発、神戸発、明石発、加古川発、姫路発。値段と時間、設備とネット上での評判、直感などを総合して、最終的にはくろグループの深夜高速バスに決めた。
 自分の今住んでいるところからバス乗り場まで行きやすいこと、片道4200円と値段も相当安かったこと、HP上で大きく信頼性について宣言していたこと、料金の支払いが当日現金払い可だったこと、ややマイナーっぽくて好みに合っていたこと(^^;、などの要素が重なったので。予約の際、ネット上で空席情報が分からないのが正直少し不安だったけど、まあなんとかなるだろうと。土曜日発のバスは、四列シートのトイレ無し車だったので、混雑してたらくつろげないかなとも思ったけど、それは安く行くためには仕方のないリスクだしなあ。


●姫路へ
 いよいよ当日の夜、バスに乗るために姫路へ向かう。東へ行くために西へ向かうというのは不思議な感じもするが、長距離移動の際にはままあること。
 それにしても眠い。金曜の夜は夜勤だったのに、土曜の昼間に他チームのトップリーグの試合がテレビ中継されてたので見るために寝ておらず、30時間ほど起き続けている計算になる。バスが眠れるような状態ならいいんだけど、そうでないとかなり悲惨なことになってしまうなあ。

 21時30分過ぎ、山陽姫路駅に到着。駅前の大通りの真正面に姫路城が見えるこの立地はいつ見てもいいなあ。ともあれ、バスの出る南口を目指す。おや、JRの姫路駅は高架工事が終わってなくて、中央部は改札を通らずに北口から南口へは抜けられないのか。ならどこから……あった、南口への連絡通路。高架工事の最中なので、上ったり下ったり、かなりくねくねとしてて、結構長い。明るいけど外が見えないダンジョンみたいな通路がずっと続いているので、なんか不安になってきたけど、通路が分かれてたりはしないので、迷う心配はないから気にせずずんずん進んでいく。

 そして南側に出た。バスはどこだろうと、HPからプリントアウトした地図を頼りに探して歩く。……あれかな? 明らかに路線バスとは違うたたずまいのバスが一台、発車準備を整えて停車していた。確認しようとそちらへ歩いて行くと、僕の姿を認めた乗務員さんが声をかけてきた。
「380さん?」
 いきなり個人特定ですか(^^; まあ、おかげでこのバスで間違いないと分かったけど。なんでも、時間までに来れるかどうか、家に電話したところだったらしい。申し込んだ時、届け出た電話番号が自宅の固定電話だったので、不安になったのだとか。ああ、そうか。今日びそういう時は携帯の番号を届け出ておくのか。言われてみれば、それはそうだよなあ。普段、時計とメール受信くらいしか使ってないから思い至ってなかったよ。


●発車
 運転手と乗務員の二人体制だったので、なんというか安心感がある。東京までの代金、4200円を払って乗り込んだ。
 出発予定時刻の22時にはまだまだある21時45分頃だったけど、僕が乗り込んだことで乗客が揃ったのか、席に着いてほどなくして発車した。

 深夜高速バスだけあって、最初から全ての窓にはカーテンがかかっていた。前方のフロントガラス方向にも。そのままだと、外は一切見えない。こうなってるのか。
 割り当てられた座席は後方の二つ。二シートを一人で使っていいらしい。これはありがたい。後方になったのは、前方に女性、後方に男性という割り方をしているためのようだ。そして、始発の姫路から乗っていたのは、自分を入れてわずか三人。この先、神戸と大阪に停車することになってるけど、どれだけ乗ってくるんだろう。乗客としてはのんびりとくつろげて嬉しいけど、経営は大丈夫なんだろうか。

 カーテンで仕切られてるのでどの辺りを走っているのか分からない。まあ深夜だし、見えてても分からないのは変わらないだろうけど。
 発車して数分、車内の明かりが落とされた。まあ、明かりが欲しければ各自の座席についている読書灯があるし、問題ない。それ以前に僕は眠いので、ありがたい。しばらく服を楽にしたり、アイマスクを取り出したり、シートをリクライニングさせたりと準備を整え、22時20分、寝にかかる。
 22時40分、予定時間より20分も早く三宮に到着。ここでは二人、乗り込んできた。これで揃っていたらしく、5分停車しただけでバスは発車した。

 ……眠いのに、寝付けない……。
 ここのところ夜勤が多く、昼に寝ることが多かったから体のリズムが合わないのか、人が少なくゆったりできるとはいえ、慣れないバスの座席なので神経が昂ぶっているのか。完全リクライニングするわけでもないし。ううむ、困った。
 なんとか寝ようともがいているうちに、バスは尼崎でトイレ休憩に停車した。23時05分。ここを逃すと次はいつトイレに行けるか分からないので、外へ。

 高速道路の路肩をPAに改修したような、こぢんまりとしたPAだった。尼崎ミニPAと言うらしい。
 トイレを済ませ、夜気で深呼吸をすると、やっとバス旅をしている実感が沸いてきた。なんか落ち着いたので、これで眠れるかな。
 バスは10分の休憩の後、23時15分に発車した。

 予感した通り、発車してからほどなく、大阪に停車するのを待たずに眠りの中に落ちていった。


●数年ぶりの東京・新宿
 よく眠れた。が、座席に座っているという姿勢のため、しばらくすると背中やお尻が痛くなってくる。途中で何度か、痛くて姿勢を変えたのは覚えている。半分寝ぼけながらだったけど。途中でせっかく2座席使っていいんだからと、二つとも限界までリクライニングさせて、胴体を横にして寝るようにしたら楽になった。学生の頃何度となく乗った、大垣発東京行き夜行列車(通称・垣鈍)で身につけた姿勢だ。体を休めることが最優先なので、他の人に迷惑がかからない限りは見た目がどうとかは気にしない。今は近くに他の人、いないし。おかげで4列座席のバスとしては、よく眠ることが出来た。

 なんか車内の雰囲気がざわついてきたなと思って目が覚めた。カーテンの隙間から外を見るが、相変わらず真っ暗で、今が何時頃なのか、どこを走っているのか、さっぱり分からない。と、乗務員さんが車内放送を入れた。間もなく新宿に到着するらしい。おや、もうそんなに進んでいたのか。
 ほどなくバスは停車。予定では新宿着は7時だったのが、まだ5時55分だ。えらく早く着いたなあ。降りていく人の数を数えると、8人だった。結局少ないままだったんだなあ。おかげでゆっくりできたよ。

 バスは新宿駅西口に着いた。らしい。新宿駅の外なんて、二十歳の時に一回飲み屋に行く時に出ただけなので、さっぱり分からない。あたりはまだ真っ暗だし。
 降りてみると、ちょうど到着ラッシュの時間らしく、他社のバスも続々と到着して、人が降りてきている。他のバスから降りてくる人は、いずこも結構な数がいる。……本当にここ、大丈夫なんだろうか?

 これからどうしようかなと思っていると、乗務員さんが僕一人を手招きした。何かと思ったら、今夜の乗車場所がここではないからと、わざわざ教えてくれた。この距離感が好みというか、体に馴染むなあ。ありがとう。


●新宿駅西口方面
 さて。
 秩父宮での試合は12時開始。観戦に誘った知人と待ち合わせをしているのは10時10分。そして今は6時。日曜の早朝に四時間近く暇な時間がある。どうしようか。店も何も開いてないし、とりあえずあたりを散策してみるか。
 まずはトイレに行きたい。なんか下の方に路線バスの発着所があるっぽいので、その近くにあるんじゃないかと下へ。

 地下というか、二層構造というか、面白い形になっていた。さすがは東京。トイレがあったので、用を足すついでに防寒着を着込む。かなり寒いので、持ってきた装備を全て着用。運動するわけではないし、過剰なくらいでいいはずだから。

 とりあえずしばらく西に行くと公園があるらしいので、そこまで行くかと歩いて行ってみると、何やら周囲には高層ビルが立ち並んでいる。オフィス街なのかな。おや、あのビルには何か見覚えが……都庁か! そうか、都庁って新宿にあったんだっけ。普段関係なかったから忘れてた。

 日曜の早朝だけど、長距離バスの発着場所になっているのか、人通りはそこそこある。スキーに行く人が多いのか、スキー板を入れたようなサイズの袋を持った人の姿が目立つ。
 東京なんだから当たり前だけど、道行く人が関東アクセントだ。
「暖かいもの飲みたいねー」
「寒いねー」
 などと聞こえてくる会話の語尾が上がっているのが、ぞわぞわするほどすごく新鮮だ。生で聞いたの、数年ぶりだもんなあ。

 それにしても、都庁もそうだし、真ん中が膨らんだような朝日生命ビルなんてのもあるし、特徴的なビルも多いなあ。どう見てもこの辺りは区画が新しく、都市計画に基づいて作られたオフィス街という感じだ。高層ビルとビルの間にはスペースが取ってあり、緑地帯がそこらにある。直線的で衛生的な雰囲気の町並みだ。田舎者からすると、すっきりしてて圧迫感はないけど、安らぎもないような感じを受けてしまう。なんというか、深夜番組の近未来的な特撮SF番組の舞台にでもなりそうな印象だ。


 空が白み始めてきた。
 さすが、はるばる東にやって来ただけあって、夜が明けるのが関西より明らかに早い。20分くらい違うのかな。緯度は大差ないので、寒さはそんなに違わないけど。
 都庁を横目に、とりあえずの目標にしていた公園に到着した。都庁ビルから道を挟んですぐ西にあったんだ。

 ……えーと、とりあえず日曜の早朝なので人通りはほとんどないんだけど、ホームレスの方が多数寝ていた。今日は特に寒いし、大変だ。これも都会特有の風景ということになるよなあ。公園には特に見るものもなかったので、ぐるっと一回りしてから外に出た。別の道を通って新宿駅方面に戻ろう。

 基本的にオフィス街のようで、町並みに人の生活臭は感じられない。朝のジョギングをしている人とかはいるけど。なのに、やたらとカラスは多く見かける。一応コンビニもあるし、残飯とかはそれなりに出るんだろうか。

 しかし、本当にデザインに凝ったビルが多いよなあ。
 抜けるような青空に、数多の高層ビルが浮かび上がるこの風景は、僕の知ってる他の日本の都市とは違う。しかし、どこかでこれと似たような雰囲気の町を見た気がする。どこだったかと考えていて、ふと思い当たった。シンガポールだ。冬と夏の違いはあるが、こんな印象を受けた気がする。

 うわあ、寒くて池の水面に氷が張っている。寒いわけだ。駅近辺に戻ったとき、ダイキンの看板で温度を見たら1℃だったので、この時点では0℃くらいだったんじゃないかなあ。

 
 のんびり歩いていたので、気がつくと7時を過ぎていた。新宿駅に向かっていると、スキー客らしい人が多くやって来ていた。日曜日だけど、これからスキーバスに乗って出かけるのかなあ。お疲れ様です。


●新宿駅北側
 西口のオフィス街は十分見たので、次は東口に向かうことにするまだまだ時間は余ってるし。
 ……で、どこから抜ければいいんだ。駅地下を歩いてみたが、気がつけば西口に戻ってきてしまったので、地上から行くことにする。とりあえず、広い通りに行き当たりそうな気がした北側へ向かう。小さい飲食店が並ぶ横を歩いて行くと、よしあった、ガード下だ。ここを通れば東口に行ける。

 ガードをくぐる前、線路沿いに飲み屋通りがあるのを見つけた。おもいで横丁、だったかな? タイミングが合えば、かなり賑わっていそうな通りだ。そして、さっきまで見ていた西口のオフィス街と違い、猥雑な、なじみのある景色になってきた。これは東口も、期待できるかな。まあ、どのみち日曜日の早朝に活気があることはないだろうけど。



●新宿駅東口
 新宿駅東口に出た。予想通り、こちらは馴染みのある雰囲気だ。雑居ビルがひしめき合い、生活臭に溢れている。都会は苦手だし、ごちゃごちゃしたのも好きではないが、なんかほっとした気分になった。張り詰めた空気がなくなったというか。
 それにしても、この辺りを歩いていると、中国人、韓国人が多いのにびっくりする。会話が向こうの言葉なんだから、間違いない。彼らは声が大きいというのもあるだろうが、東京弁の次くらいに聞こえてくる気がする。朝から元気だなあ。


 日曜の早朝で、人通りがそんなに多くないせいか、新宿は想像していたよりずっといい雰囲気だった。まあ、それでもやっぱり東京の都心部だけあって、空気が汚れているのを感じるのは仕方ない。
 駅近くの界隈をぶらぶらとうろつく。当然だけど、飲食店が多いなあ。こんな時間でも開いてる店も何軒かあるし。でも、お腹は減ってるけど、財布の中を考えると今は食べられないなあ。
 おや、オープンカフェの社会実験? 行政主導でやってるのかな。にしても社会実験って……なんか大仰に感じてしまうけど、この地の事情を知らないからなんとも言えない。どういう意図があるんだろう。


 駅の道を挟んだ対面にあったんだけど、スタジオアルタ? なんだっけ、聞いたことがあるような……。
 

 そんなこんなで、気がつけば8時を過ぎていた。二時間、ただひたすらにうろついていた計算だ。そして、うろつきながら考えていたのだが、どうせ時間もあることだし、新宿から待ち合わせ駅の千駄ヶ谷まで歩いてみようかな。電車代の130円が惜しいわけではないけど、時間が余って仕方がない現状だし。よし、行くか。駅で簡単な周辺地図が載っているパンフレットを入手して、いざ南東方向へ出発。



●千駄ヶ谷へ
 地図を見ると、新宿駅の南東方向には、新宿御苑という大きな公園があるらしい。ちょうどいいや、そこを抜けていくルートを取れば、ベンチで一息ついて時間調整とかできそうだ。
 ということで新宿御苑を指して歩いていると、制服姿の中学生がたくさん歩いていた。日曜の朝なのになんだろうと思っていたら、都立新宿高校に行き当たった。推薦入試が行われるらしく、看板が掲げられ、受付をしていた。納得。それにしても都心部の高校って、土地がないからかグランドは狭いし、校舎は上に伸びてるんだな。7階建て?


 新宿高校の横を過ぎ、新宿御苑に差し掛かった。おお、緑がある! ……あれ? なんか思い切り門が閉まってるよ。門の向こうには遊園地や動物園にあるような入場ゲートっぽいものも見えるし……これはもしや。

 やっぱり。新宿御苑って、有料施設だったのかぁ。残念。


 仕方ないので元来た道を引き返す。御苑の周辺を回り込み、JRの線路に沿ったような形で向かう道があったはずだ。そこを通れば迷わずに向かえるだろう。
 新宿高校前まで戻ってきた時、学校の入り口近くにいるジャンパー姿の大人二人が何やら打ち合わせしていた。その横を、推薦入試に向かう中学生が通り過ぎている。あれ、入試関係の人じゃないのか? さっきはそうだと思って気にしてなかったんだけど。どうやら「新宿シティーハーフマラソン」が今日の午前中に行われるらしく、ここはその給水所になっているらしかった。交通規制の案内看板もあったし、大量の水の入った箱も置いてある。なるほど。なんか色々ある日に新宿に来たんだな、自分。
 

 それはともかく、千駄ヶ谷駅に向かう。大体の方角は分かってるので、太い道を辿っていけばなんとかなるだろう。線路という目印もあることだし。それにしてもさすがは東京というべきか、歩いていると、そこらに地図があるなあ。駅前以外にこんなにあるというのは、結構新鮮な驚きだ。おかげでそんなに迷わず千駄ヶ谷まで行けそうだ。
 8時を過ぎて外も普通に明るくなってきたし、だんだん暖かくなってきた。とりあえずマフラーの巻きを弱くする。どんどん南下していくと、鉄道の高架が出てきた。これは中央線だったと思う。この北か南で、線路に沿って東進すれば着けるはずだ。

 線路をくぐって何気なく右手を見ると、日本共産党中央委員会のビルがあった。なんというか、さすが東京。
 そんな感じで歩いていくが、この道も新宿ハーフマラソンのコースになっているらしく、パトカーが路駐している車に移動の呼びかけをしてまわっていた。歩道には、スタッフらしきジャンパーを着た人たちの姿も見られるようになってきたし。

 十字路を東に折れ、高速道路と線路に沿っている道を歩いていく。この道もハーフマラソンのコースなのか。日曜の朝とはいえ、都心部でこれだけの道を通行規制するのは大変だなあ。スタッフの数も多いし、僕が知らないだけで、結構規模の大きい大会のような気がしてきた。



●千駄ヶ谷駅前
  着いた。

 駅の正面、道を挟んだ向かいに東京体育館がある。まだ9時よりだいぶ前なのに、そちらに向かって歩いていく人が大勢いた。ここでも何かイベントがあるようだ。看板が出ていたので見てみると、ジャクパカップという体操の大会らしい。体操かあ。

 待ち合わせ場所はここだが、まだ一時間半ほど余裕がある。寒いし、時間を潰す場所もないし、暇なので東京体育館周辺をぶらぶらとうろつく。ちょっとトイレに行きたくなってきたし、探しがてら。……なんだこの、近未来的なデザインの体育館は。ベンチと自販機はあったけど、トイレは見当たらないし。うろついていたら、国立競技場が見えてきた。ビジョンの表示が見えたが、どうやら今日のハーフマラソンの会場に使われているようだ。それはともかくトイレはどこだー!
 気がついたら9時を過ぎていて、体育館が開館していたので、中に入ってトイレを拝借。

 さて。10時10分の友人との待ち合わせまでは一時間ある。もう近所を歩き回る気力もないし、どうしようか。
 と思っていたら、駅前のビルの下に、石で出来たベンチがあるのを見つけたので、そこに腰掛けて読みかけの今月のラグビーマガジンを読むことにした。日陰なので寒そうだけど、しばらくは時間を潰せるだろう。
 ……底冷えがしてきた。30分ほど座っていたが、もう限界だ。体の芯から冷えてしまった。

 雑誌に没頭していて気づかなかったが、目の前の道路はいつの間にかコーンで仕切られ、立派なマラソンコースになっていた。そしてスタッフが横断歩道の通行規制をしている。近くにいるスタッフが
「そろそろ来るぞ」
 と会話していた。え、もしかして一位通過の選手がもうじき来るのか?
 来た。

 おお、黒人選手だ。招待選手か何かかな?
 それからは続々とランナーがやって来た。勝ち負けに真剣な競技者、かなり鍛え込んでいそうなアスリートから、ネタに走るランナー、明らかに運動不足できつそうな一般参加の人まで色々な人がいて、見ていて飽きない。

 あらかたランナーが走り去ってしまったので時計を見ると、10時10分。そして携帯に友人からメールが入っていた。五分ほど遅れると。律儀だなあ、了解。


●秩父宮へ
 友人とも合流できたので、歩いて秩父宮ラグビー場への移動を開始。
 国立競技場の横を南下していくルートを選んだのだが、ハーフマラソンの会場近辺だけあって、競技中のランナーがわんさか走っている。本当に盛大な大会なんだなあ。

 参加者は一体何人くらいいたんだろう。
 道路を横断したかったけど、マラソンのコースを横切る形になるので人の波が切れるのを待っていたら、5分ほど待っても切れる気配がないほどだった。仕方ないので、ピンポイントにギリギリの隙間を見つけてタイミングを合わせ、なんとか横切らせてもらった。横断歩道についていたスタッフの人もそうしろと言ってくれたけど、確かにおとなしく待っていたら、いつまで経っても渡れなかったろう。ハーフマラソン、大盛況だ。

 その後は混む事もなく、のんびりと歩いて行けた。秩父宮のすぐ北にある神宮球場の横を通ったので、野球ファンだった記念に一枚ぱちり。

 (初秩父宮でのラグビー観戦記は、ラグビー観戦記のコーナーで書いてます。)


2008年1月27日(日) 東京 → 1月27日(日) −兵庫


●試合後
 二試合の観戦を終え、すぐ横のカンタベリーショップでスピードクジをしてから店内を見物し終えると、暇になった。帰りのバスが新宿を出るのは深夜23時40分以降だが、今はまだ17時前。どうしようかな。
 一緒に観戦していた友人と話した結果、少し早いけど友人のお勧めの店で食事をしようということになった。JRで数駅のところにあるらしいので、まずはJRの駅へ向かう。と、秩父宮の前で、スーツ姿の三洋の選手が何人か、地下鉄の駅の方へ歩いていくのとすれ違った。三洋の選手はあまり分からないけど、ジャパンでもあるプロップの相馬は分かった。


●広島焼きと大相撲
 東京のJRには、関西のプリペイドICカード、イコカでそのまま乗れた。友人に言われたので試してみたが、本当に出来た時はちょっとびっくりした。これは便利だ。というか、面白い。
 連れて行ってもらった店は、カープファン御用達だった。店内にはジャージユニフォームやら新聞記事やら写真パネルやらが所狭しと飾られていた。カープにはいまだに好感を持っているので、これはいい感じだ。広島焼きもおいしかったし。満足、満足。
 テレビで大相撲の千秋楽をやっていて、食べ終わって出ようという時に、ちょうどトリの一番、朝青龍-白鵬の横綱決戦だった。比喩でもなんでもなく、その取り組みの間は店内の全ての人がテレビに夢中になっていた。攻めて攻められて、力の入る大一番だった。最後には上手投げで白鵬が勝ったけど、東京で最後にいいものを見れて良かった。
 取り組みが終わり、支払いを済ませて外に出ると、窓から中のテレビを見ていた人に
「今勝ったのは白鵬ですか?」
 と尋ねられた。注目度の高い決戦だったんだなあ。


●時間潰しの乗り潰し・1
 食事も終え、もうすることがなくなってしまった。まだ18時前なので、バスの時間まではまだ6時間近くある。日曜の夜なので、友人はそろそろ家に帰らないといけないし。
 普通に考えたら、新宿駅の近辺で時間を潰すんだろう。映画を見るとか、漫画喫茶で粘るとかして。でも、そんなお金はないというか、そういう気分ではなかったので、ぐるっと東京近郊の列車の乗り潰しをすることにした。

 とりあえず、このまま中央線に乗って西へ。西武線に乗り換える友人と西国分寺で別れ、その友人のお勧めに従って、立川で降りる。ここから南武線に乗り換え、川崎を目指すのだ。このルートなら、南武線は始発なので座れるだろうとのことだった。もう外は暗いし、乗ったことのある路線なので、外の景色を見るよりも、読みかけの雑誌を暖かい中で読んで時間調整をするのが目的だから、ちょうどいい。

 南武線のホームに来たら、ちょうど発車するところだった。どうせなら確実に座りたいし、どうせ時間も余ってるからと、トイレに行って一本後のに乗ることにする。

 ホームに降りると、ほどなく列車がやって来た。早速乗り込んで座り、雑誌を広げる。ホームにはそんなに人はいなかったのに、発車時間が迫るにつれてどんどん乗客は増えていき、発車時には座席は全て埋まり、立っている人もいるような状態になった。一本遅らせて正解だったんだな。

 南武線の車内は、暖房がよく効いていて暖かかった。防寒着を着込んだ身には汗ばむほどに。途中からジャンパーの前を開けて乗っていたよ。

 川崎駅に着いた。ここで東海道本線に乗換えだ。
 この辺りでは、東京に行くのに東海道線と京浜東北線の二種類があるのがややこしい。同じ駅から同じ方向に向かうのになんで分かれてるんだろう。慣れれば便利なんだろうが、地方の者にはどっちがどうなのか分からない。とりあえず適当に東海道本線のホームに行く。東海道線の駅は、一つのホームが長く、本数が多く、なんというか大きい駅という印象があるが、ここもそんな感じだな。

 待っていると、アナウンスが流れた。17時37分に秋葉原駅で人身事故があったため、列車は遅れるそうだ。まあ、バスの時間までに新宿に戻れればいいよ。それでも急ピッチで復旧したらしく、20時05分には列車はやって来た。元々の時間が何分かは知らないけど、そんなに遅れた印象はなかったなあ。

 この列車は東京行きだった。品川で降りるか、東京で降りるか。面倒臭いので、最後まで乗る事にして東京まで行った。近代的というか、いかにも新しい車両で、座席も軽そうな素材と外見だった。こういう地方、会社による車両の違いというのも面白いものだ。鉄道マニアが多くいるのも分かるなあ。

 東京に着いた。まだ20時台だ。時間あるよなあ。ずっと時間まで乗りまくるつもりだったが、ここから先の考えが浮かばないので、とりあえず腰を下ろして落ち着きたくなった。が、ベンチが見当たらない。ええい、相変わらず東京駅の構内は広すぎてわけが分からない。待合コーナー、あったと思ったんだけどなあ。仕方ない、外に出るか。駅の外なら、ベンチくらいあるだろう。それから辺りを少しぶらぶらして時間を潰せばいいや。

 外に出て、案内板を見ているうちにふと思った。ここからぐるっと東京の大外を回っている武蔵野線はどうか、と。それならどう乗るかをあまり考えずに、時間を使えるのではないか。途中で何回か中心部に向かう線路と交わっているので、時間と気分次第では切り上げて戻れるし。よし、それで行こう。


●時間潰しの乗り潰し・2
 そう決めて再度中へ入る。改札を出た意味がなかったような気もするが、考えたら負けだ。そもそも時間潰しに意味はないし。
 武蔵野線の乗り場は、京葉線と同じだった。京葉線? なんか聞き覚えがあるんだが……と思う間もなく、案内板があった。

 そうだった。一つだけホームが離れていて、かなり歩かないといけないんだった。しかし、一つの駅の中で570mも歩かなきゃいけないって、通勤通学で使ってる人は大変だなあ。たまたま時間調整に使うだけの身としては面白いけど。それでもやっぱりホームまでは遠かった。
 ここで何度かエスカレーターを使ったのだが、みんな左側に立って右側を空けているのに物凄い違和感を覚えた。そういや関東と関西では逆なんだっけ。言葉もそうだけど、改めて遠出してきてるんだなあと実感した。

 そうしてたどり着いた京葉線・武蔵野線ホームで、ちょうど来ていた武蔵野線の快速に乗り込む。始発だし、時間的なこともあってか、あまり混んでない。
 乗り込んでからは雑誌を読みふけっていたのだが、発車してしばらくして、なんか車窓風景が気になって顔を上げると、きれいな夜景が広がっていた。海沿いの高いところを走っており、この眺めはきれいだ。たまたまだけど、この路線に乗ってよかった。高いところを走るって事は、ここを走る中では新しい路線なのかな。それとも航行する船のために高さを確保する必要があったのか。

 このまま西国分寺まで行こうかとも思ったが、先の秋葉原の人身事故による遅れを思うと、あまりギリギリに新宿に戻るより、早めに戻って暇だなーとうだうだしてる方がいいような気がしてきた。ということで、新松戸で乗り換えて新宿に戻ることにした。さすがに西船橋から戻ったのでは時間をもてあましそうだったし、南浦和や武蔵浦和から戻るルートは、散々乗った印象があるので面白みに欠けるし。その点、常磐線は乗った印象があまりないのでちょうどいい。

 新松戸に着いた。この駅はローカル線の風情があるなあ。やって来た常磐線の普通車も、新しいおしゃれな車両ではなく、地に足の着いた雰囲気のものだったし。なんか落ち着くなあ。

 新松戸に来る列車が普通ばかりだったので、このあたりは快速はないのかと思っていたら、松戸・北千住・西日暮里で乗換えが出来るらしい。今乗っている普通は、このまま地下鉄に乗り入れるらしいし。普通と快速では通るルートが違うのかな。それでホームの案内にも「常磐線(各停)」「常磐線(快速)」と分かれて表示されてたのか。なんか複雑な路線だな。とりあえず地下鉄に入るとややこしそうなので、松戸で快速に乗り換えることにする。

 快速列車で山手線の日暮里まで乗り、降りる。ここから山手線で新宿に向かう。
 山手線に乗って驚いたのが、各ドアの上に、モニターが二面ついていることだった。一面はCMを流していたが、もう一面は詳細な車両の運行情報を流していた。次の駅でのドアと階段の位置を図示したり、先々の駅の到着予定を流したり。乗降客が多い山手線ならではのサービスということなのかな。すごいや。

 そして新宿駅に戻ってきた。バスが来るまでまだ一時間以上あるが、何かのトラブルで乗れなくなるよりは暇なほうがずっといいので、これでいいや。


●夜の新宿駅西口

 とはいえ、やはり暇だ。することが何もないし。とりあえず、お腹が減ってきたので何か食べられないかと駅周辺をうろつく。吉野家とココイチは近くにあったが、どちらも店舗が狭く、落ち着けないような気がした。日曜の夜だというのにお客さんでぎっしり埋まってるし。なんか気分が乗らなかったのでやめにした。つくづく苦手だなあ、外食。
 寒くなってきた。列車に乗ってて温まってた体の熱の貯金がなくなったようだ。寒さに震えながらうろつき続ける。

 ふと思いついて、オフィス街の方へ足を向ける。平日は遅くまで仕事をしてる人はいるだろうし、深夜バスも多く発着するわけだから、飲食店はなくてもコンビニはあるかもしれない。あった。
 が、考えることは皆同じようで、食事関係の食べ物はあらかた買い尽くされていた。さらに歩いて見つけたナチュラルローソンは大丈夫だった。ここで何か買って腹に入れよう。
 あまりお金もないが、白ゴマチキンフィレと白大福三個入りを買った。計252円。今は寒いし暗いので、バスに乗ってから食べよう。


 もうすることがなくなったので、バス乗り場でぼうっとしてバスを待つ。他社の深夜バスが続々と発着しているから、見ていれば時間潰しにはなる。乗客リストにある人が無断で来てないと、乗務員は必死になって周囲に呼びかけていたりする。大変だよなあ。


●帰路
 23時40分前、僕の乗るはくろエクスプレスのバスがやって来た。ボディに描かれた姫路城が分かりやすくていい。降りてきた乗務員さんと目が合った。やはり、行きのバスと同じ人だ。会釈すると、
「あ、380さん。乗り場分かりました?」
 と声をかけられた。やっぱり覚えられてたよ。今回の支払いは、座席についてから乗務員さんが受け取りにやって来た。

 帰りの車内はさすが日曜深夜発というか、よく混んでいた。
 やはり前方が女性、後方が男性という区分になっていたので女性の方は分からないが、男の座席は大体埋まっていた。とは言っても、4列がけの座席で、一人2席だと数人溢れるくらいだったけど。まあ、一人一シート隣り合わせて座っているのは全て知り合いのようだったし。
 発車間際になってキャンセルが出たのか、乗務員さんがやって来て、空いた席があるのでどうぞ移動して下さいと言っていた。おかげで、最終的に僕の近くでは、一人二シートがほとんどになり、隣り合わせで座っているのは二組だけになった。ちなみに僕は一人で二シートを貰っていた。ありがたいなあ。

 乗り込んでからまず、発車前に先ほど買ったパンを食べて腹ごしらえを済ませ、ブランケットを取ってきてから衣服を緩め、アイマスクなどを用意する。今日は乗客が多いので、耳栓も必要だろう。時間が遅かったので、車内は発車してすぐ明かりが落とされたのもありがたかった。アイマスクを下ろし、耳栓をつけ、いざ眠りの世界へ。

 気がつくと大阪に停車して、何人かが降りていくところだった。
 新宿駅を発車してからここまで、トイレ休憩に降りるどころか一度も目を覚まさなかったよ。自分で自覚する以上に疲れていたのかなあ。二日連続なので、体がバスに慣れたってのもあるんだろうけど。それでもやはり尻と首は痛くなってたので、何度か体勢を変えたような記憶はぼんやりとならある。

 空気が乾燥していて喉が渇いていたのでペットボトルの水を一口飲み、まだまだ眠かったのでもう一度眠りにつく。次に気がつくと、今度は神戸に着いていた。今度はかなりの人数が降りていった。いきなり車内ががらんとしたよ。やっとのんびりできるなあ。僕の周囲に残っている男性陣は、皆スーツを持っているから仕事関係かな。月曜の朝だしなあ。でも、仕事関係で夜行バスで関西に来るのは疲れるだろうな。行きか帰りか知らないけど、お疲れ様です。

 神戸を予定よりかなり早い6時45分に出たのだが、バイパスで渋滞につかまったようで、なかなか進まなくなった。外がかなり明るくなってきた。

 まあ、元々の姫路着の予定は8時50分だからまだまだ余裕はあるんだけど。それ以前に、僕は今日は休みなので、帰ったら寝るだけだから遅れても問題はないし、気楽なものだ。
 車内に見える頭を数えてみると、姫路まで乗っている乗客は、僕を入れて6名のようだ。そんなものなのかな。
 結局、姫路に着いたのは8時10分だった。


 思った以上にのんびりできたなあ。いいバス旅だった。これなら、また次の機会にも利用したいと思うよ。ありがとう。



●家へ
 山陽姫路駅へ行こうと姫路駅南口を歩いていると、ビジネスホテルの宣伝パンフレットを貰った。当面、僕が姫路で泊まることはないんじゃないかなあ。でも、パンフレットにボールペンがついていたのでありがたく受け取る。ちょうどいままで使っていた、メモ用のボールペンがこの旅の途中で使い終わってたから、助かるよ。タイミングがよかった。

 姫路駅の北側と南側を繋ぐ連絡通路、行きは東側を使ったので、今度は西側を使って行こう。平日の朝なので、利用者はそれなりにいる。外からの光も多少入ってきているし、来る時のようなダンジョン感はあまりない。


 長い連絡通路を抜けると、姫路駅北側の神姫バスターミナルが見えるところに出た。さすがにこの時間は賑わってるなあ。


 通路はそのまま地上に降りず、二階の山陽電車乗り場へと繋がっていた。昨日は到着したらまっすぐ地上に出たからこの通路に気づかなかったのか。なるほど。


 通勤ラッシュも終わった電車は比較的空いていて、ゆっくり座ることが出来た。

 この路線はまだ飽きるほどは乗ってないので、なんか新鮮だなあ。まだ旅が続いている気分だ。

 いやまあ、よく言われることだけど、家に着くまでは終わってないんですけどね。

 なんにしてもなんだかんだで疲れたよ。昼間だけど家に着いたら風呂に入って一眠りしようっと。



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